| ≪カンタータの案内≫ 200曲にも及ぶ教会カンタータは全曲聴くには相当な時間を要しますが,どれもこれも素晴らしい作品ばかりです。何が良いかと聞かれると列挙するには難しいですが特に親しまれているのは第140番と第147番です。まだ全曲を聴いたわけではないのでとりあえず気に入っている曲のほんの一部を挙げてみます。
第1番 「輝く曙の明星のいと美しきかな」 第4番 「キリストは死の縄目につながれたり」 第5番 「われらはいずこに逃れいくべき?」 第26番 「ああいかにはかなき、ああいかにむなしき」 第51番 「もろびとよ、歓呼して神を迎えよ」 第80番 「装いせよ、おおわが魂よ」 第106番「神の時こそ、いと佳き時」 第140番「目覚めよ、と我れらに呼ばわる物見らの声」 第147番「心と口と行いと生きざまは」 第180番「装いせよ、おお、わが魂よ」 第196番「主よわれらを御心に留めたまえり」 ----------------------------------------------------------------------------- ≪カンタータ第147番「心と口と行いと生きざまは」について≫
この曲は10曲からなっていて全体が2部に分けられ各部の最後の曲6.10曲目のコラールがかの有名な「主よ、人の望みの喜びよ」です。各部にアリア、レチタティーボ、コラールがありそこに含まれる旋律は情緒豊かです。 コラールの内容はイエスはいかに私の心の慰めであり、力であり、太陽、宝である。どれほどわたしを元気付けてくれたか…だからこそ,私はイエスを離さない…と言う内容で、情感豊かにしっとりと歌い上げている。 バッハ演奏にかけて金字塔を打ちたてた、カール・リヒターの演奏と鈴木雅明さんの2つのCDしか聴いていませんが、古今のトップの演奏を聴いてみましょう。
★カール・リヒター指揮ミュンヘンバッハ合唱団、アンスバッハ・バッハ週間管弦楽団
ARCHIV453 094−2 1961年 ウルズラ・ブッケル(S)、ヘルタ・テッパー(A)、ヨ−ン・ファン・ケステレン(T) ヨ−ン・ファン・ケス(T)、キートン・エンゲン(B)
リヒターのバッハは、当時(50〜60年代)の慣習に従って、古楽器ではなくモダン楽器による演奏です。バッハの時代の演奏形態とは異なり、恐らくバッハが意図した物とは違う表現になっていると思います。しかしリヒターの強烈な統率力のある厳しい演奏には崇高さを感じます。 精神性の高い作品といえるでしょう。 リヒターのカンタータは約20年かけて70曲ほど録音しています。またこの第147番は名演だと言われていますが、私ははっきり言ってあまり好みではないです。(第140番は素晴らしいのですが)他に名演が多くあることを思うと、少し物足りなく感じます。 その一つは、それぞれのパートのソリストがイマイチかなという感じです。 ソプラノ、アルトのビブラートのかかった声が崇高さ、清澄さから遠のき、オケの切れがよく、統率された音とマッチせず、品を落としている感があります。 第一曲目の冒頭のソプラノ軍団は少し薄っぺらく軽薄に聞こえます。 テノール、バスがペーター・シュライアー、ディートリヒ・フィッシャー・ディスカウでないというのも物足りなく思います。 全体的にオブリガートなどに3連音符が顕著に現れてきますが、リズミカルに躍動感を出しているところはリヒターらしいです。 清冽で切れ味の良い厳しい演奏がリヒターの持ち味ではないでしょうか。 リヒターが成し得た業績があってこそ、今の古楽器演奏に繋がっているので、やはりリヒターの演奏も聴くべきでしょう。
★★鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン
BIS CD1031 1999年録音。 野々下由香里(S)、ロビン・ブレイズ(CT)、ゲルト・デュルク(T)、 ぺター・コーイ(B) http://www.hmv.co.jp/Product/Detail.asp?sku=611067
第140番はアーノンクールの演奏は聴いていませんので,ピリオド楽器による演奏は鈴木さんしか知りません。 この演奏の聴きどころの一つとしてトランペットの演奏を挙げます。 第1、9曲のオブリガートで登場し、また6,10曲にはコラールの旋律に重なって奏しています。 1、9曲はバロック・トランペットで演奏されていますが6,10曲のコラールではバロック・トランペットでは演奏できない音があり(自然倍音からはみ出す)スライドトランペットを使用している。 トランペット奏者の島田俊雄さんは、楽器の制作から手がけている人で自作,自演をしています。 スライドトランペットは、トロンボーンと違って本体自体がスライドするので大変難しいものだそうです。難しい技術を要するにも係わらず事も無げに演奏していますが、恐らくバッハが意図した楽器で演奏をしているのは、BCJだけなのではないかと思われます。 合唱と重なって演奏される音はまるで合唱団の一人のようです。つまりあたかも声のように聞えるからです。その音色は膨らみがあり,温かさに富み、表現豊かです。島田さんは日本においてバロック・トランペット奏者の第一人者です。
ソプラノ、アルト、テノール、バスのソリスト4人はBCJの演奏の中では 最も好きな組みあわせです。名実ともに実力派。それぞれのパートのソロ演奏があるこのカンタータで、浸透力のある素晴らしい歌声を聴かせてくれています。 またコンサートマスターに寺神戸亮さんを置いているのも、最強です。 寺神戸さんのヴァイオリンが入ると本当に温かみが出てくるんですよね。 BCJの演奏は細部に渡り一致したバッハ音楽の解釈がその演奏に透明感と、瑞々しいまでの美しさと優しさと温かさを出しています。それだけでなく一切の妥協をしない音へのこだわりも感じます。神戸松蔭チャぺルの音の響きと溶け合ってとても美しい、心洗われる作品となっています。 リヒターの演奏が名盤なら、鈴木雅明/BCJ盤は,決定盤だと言えます。 文句なしの完璧な演奏です。 この147番が入っているCDは以下の賞を受賞しています。(カップリングで第21番) ●2000年レコード・アカデミー賞(声楽部門)、 ● 日本ミュージックペンクラブ賞(最優秀アルバム邦人アーティスト)を受賞
追伸…カンタータの後はバッハの最高傑作と言われる「マタイ受難曲」「ヨハネ受難曲」を是非とも聴きましょう。マタイを聴かずしてバッハを語れません。それぞれ3時間、 2時間という大作なので、どう紹介していいやら…・・またそのうちに。
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